「権利化前はリパーゼ、権利化後は70条により、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する」的な説を聞いたことがある。
これの根拠が平6改正本に記載されていると聞いたので、読んでみた。
■結論
単なる都市伝説。
権利化前も権利化後も70条2項と同様の認識で解釈するらしい。
参考文献
特許庁pdf:平6改正本4章
以下、太字部分が重要なポイントである。
■リパーゼ判決
特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載にてらして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるに過ぎない(最判平3年3月8日判決)。
■リパーゼ判決に対する考え方(平6改正本p118)
(略)以下のような考え方が乱立し、やや混乱が生じていた。
1.特段の事情がない限り、用語の意味の明確化という目的であっても、発明の詳細な説明や図面の参酌は許されないとし、これまでの判決の考え方とは異なるものであるとする考え方
2.
判旨の真の意味は、「語義の明確化等のため、
原則的に発明の詳細な説明の参酌が許容されるとの前提に立った上で、
クレームに記載された技術的事項がそれ自体として明確に把握できる場合には、
それ以上に限定するような仕方で発明の詳細な説明を参酌することは許されない。また、
発明の詳細な説明に記載があってもクレームに記載されていないものは記載のないものとして取扱うべき」というものであるとする考え方
■工業所有権審議会答申(同ページ)
上記2に示す考え方を確認的に規定するとの認識の下に、特許法第70条において、「クレームの記載は発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌して解釈される」旨を規定する方向で検討することが適当であるとされた。
■70条2項(同p120)
第2項は、第1項の規定に従い、~用語の意義を解釈する旨を規定した。
本項は、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められることを大前提としたうえで、
リパーゼ判決の判旨は、上記2に示すように捉えるべきことを確認的に規定したものであり、特許請求の範囲に記載された用語について発明の詳細な説明等にその意味するところや定義が記載されているときは、それらを考慮して特許発明の技術的範囲の認定を行うことを明確化したものである。
略
■審査における発明の詳細な説明の参酌(同pp121-122 参考)
省略
上記の点(特許請求の範囲の性格)を踏まえるとともに、リパーゼ判決の判旨に鑑み、平成5年6月の改訂審査基準では、審査における特許出願に係る発明の認定は、今回改正された
70条2項と同様の認識の下に、次のように行う旨規定されている。
1.請求項の記載が明確である場合には、請求項の記載通りに認定する。
2.請求項に記載された用語の意味内容が発明の詳細な説明において定義又は説明されているか、又は、請求項の記載が明確でなく理解が困難であるがそれが発明の詳細な説明に明確にされている場合は、これらの用語、記載を解釈するにあたって発明の詳細な説明の記載を参酌する。
■考察結果
他の資料知らんからわからんけど、とりあえずこの改正本を読む限りでは、「権利化前はリパーゼ、権利化後は70条により、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する」というのは単なる都市伝説にすぎないと考えられる。
どっちもリパーゼ(70条2項)だよ!たぶん。
■追記
この都市伝説をそのまま信じきっている人って結構多いんじゃねーかな。ネット上をはじめとするいろんなところで見かける気がする。
■追記2
誤りがある場合にはご指摘されたい。
■追記3
特許判例百選の竹田稔先生の解説によると、「特許発明の技術的範囲」は「発明の要旨」とはちょっと違うことがあるよ!的なことが書かれていた(特許判例百選第3版p139)。よくわからんお。
■その他リンク
弁理士試験ストリート