受験新報Vol80の再現答案を見ていて、こう書いたほうが良いのにと思ったことを書く。
■その1 丁寧に論理展開しよう
受験新報Vol80 pp29-30 意匠法問題2(1) 再現答案2より
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(2)意匠の新規性の喪失の例外の適用について(4条)
甲は、X国で展示された日(平成23年1月10日)から6月以内に自動二輪車Aの意匠イ及び自動二輪車Bの意匠ロについて新規性の喪失の例外の適用を受けて出願することを代理人は検討すべきである(4条2項)。
①自動二輪車Aの意匠イの展示による3条1項3号違反(17条1号)、および自動二輪車Bの意匠ロの展示による3条1項1号違反(17条1号)を回避するためである。
②代理人は、新規性喪失の例外の適用を受ける旨を記載した書面を出願と同時に提出し、かつ証明書面を出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならないことを検討すべきである。
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ここでは、イが3条1項1号違反であることを述べるなど、条文に即して丁寧に論述したほうが良い。すなわち、以下のように記載すべきである。仮にここで多少の時間を使ったとしても、その分の点数はつくはずである。
マイ回答案1
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(2)新規性喪失の例外の適用(4条)
1.イ及びロは、意匠登録を受ける権利を有する者(3条1項柱書)甲のモーターショーへの出品行為により、公知意匠(3条1項1号)となっている。ロは、それ自身が公知であるとともに、イに類似する意匠(同項3号)である。従って、ロに係る出願は、イ及びロを引例とした3条1項違反の拒絶理由(17条1号)を有する。
2.従って、代理人は、新規性喪失の例外(4条2項)の適用を受けるべきことを検討すべきである。当該適用によりイとロは3条1項1号に該当するに至らなかったものとみなされる(4条2項)から、ロに係る出願について、3条1項違反の拒絶理由を解消できる。
3.なお、当該適用を受けるために、ショーに出品した日から6月以内に意匠登録出願(6条1項)をしなければならないことに留意すべきである(4条2項)。また、ロに係る出願と同時に、イとロについて新規性喪失の適用を受けたい旨の書面を提出し、かつ、出願から30日以内に、甲がイとロをショーに出品したことにより3条1項1号に該当するに至ったことの証明書面を提出することに留意すべきである(4条3項)。
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丁寧に条文を使用して論理展開をすると、理解が伝わりそうな雰囲気がでる。たぶん。
■その2 出典はきちんと確認し、原文で理解しよう
受験新報Vol80 p19 特許法問題2 設問1(3) 再現答案2より
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(1)甲は単独で、当該審決の取消訴訟を提起することができると解される(178条1項)。
(2)特許権の消滅を防ぐ保存行為であるため、単独で提起できると解される。
(3)類似必要的共同訴訟であるため、合一確定の要請も満たされる。
(4)棄却判決の場合、審判に戻り(181条)、共同で審判請求することになり、合一確定の要請が満たされるからである。
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ちなみにエトニス事件は、
こちら(裁判所PDF)。
「どんだけ伝言ゲームが繰り返されたんだよ」というのが第一の感想である。とにかく、再現答案を書いた人は、とにかくキーワードである「保存行為」「類似必要的共同訴訟」「合一確定の要請」だけを書いたのだろう。
キーワードは、論理的に書いたときに初めて役に立つもので、無理解の時に無理やり書いても高評価にならない。
同様の内容だとしても、以下のように書けば、ある程度理解が伝えられよう。
マイ回答案2
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1. 甲は単独で審決取消訴訟の提起をできる(178条1項)と解される。
2. 無効審決の確定により特許権が消滅する(125条)ところ、審決取消訴訟の提起(178条1項)は、その確定遮断効により特許権の消滅を防ぐ保存行為に該当するからである。
3. また、仮に甲の単独提起を認めても、以下の通り審決合一確定の要請は満たされるから問題はない。
4. すなわち、認容判決が出れば、その判決は共有者乙にも及び(行政事件訴訟法32条1項)、特許庁へ再度係属して共有者全員を被請求人として審理される(181条1項、同条5項)から、審決合一確定の要請は満たされる。また、棄却判決の場合でも、他の共有者の出訴期間満了により無効審決が確定し、特許権は消滅する(125条)から、審決合一確定の要請に反することはない。
5. さらには、甲と乙が個別提起をした場合であっても、その訴訟を類似必要的共同訴訟として併合審理すれば、いずれの判決であっても審決合一確定の要請に反しない。
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理解を伝えるためには、その物事について深く理解しなければならない。物事を理解するためには、伝言ゲームのなれはてであるレジュメを見るのではなく、できる限り原文にあたるべきである。
■その3 不要なことは書かないよう意識しよう。
答練などでくどく言われるのが、どんな問題でも、「原則→例外」の順に検討しろだの、「否認→抗弁」の順に検討しろだの言う話である。そりゃまあ頭の中でそういった検討は必要であろうが、それを答案に書くべきかどうかはまた別問題である。
「××が主張すべき事項を、代理人の立場で述べよ」とあるときに、「~故、○○は主張できない」とか書いてあったらどう思うか。「主張できないなら書くなよ」と思うだろう。積極的に不利なことを認めてどうするというのか。積極否認(理由づけ否認)ならぬ積極自白(理由づけ自白)である。
受験新報Vol80 p30 意匠法問題2 設問(2-2) 再現答案2より
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(1) 意匠権の侵害とは、正当権原、正当理由なき第三者が業として登録意匠と同一または類似する意匠を実施することをいう(23条本文)。
(2) 乙は、登録意匠ロに類似する意匠ハを販売しており、否認できない(2条3項、23条)。
(3) 29条の主張について
乙は、甲の出願の際、意匠ハの実施である事業の実施またはその準備をしていないため、乙の主張が認められない(29条)。
以下略
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上記は答練等なら評価されるかもしれない。予備校の指導内容に沿っているからである。しかし、法律論文としてみてみた時、「甲の出願の際、なぜ事業の準備等をしていないのかといえるのか」がわからない。侵害がどうこう不要なことに数行を使っているため、メインで書くべき29条の記載が薄くなってしまっているのである。
これは、内容の可否はともかく、ストレートに以下のように解答すべきである。同程度の記載量であるが、より説得力があるだろう。
マイ回答案3
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1.乙は、ロにかかる意匠登録出願時に、登録意匠ロに類似する独自創作した意匠ハの実施である事業「自動二輪車Cの販売」を行っていたことを理由として、先使用による通常実施権を有することを主張すべきである(29条)。
2.登録意匠ロは、パリ条約の優先権の主張を伴っていると考えられるところ、パリ条約4条Bでは、第一国出願と第二国出願の間の第三者の行為等によって、いかなる使用の権能をも生じさせないことを規定している。
3.乙は、Y国の出願後、ロの出願前に事業の準備を始めているから、パリ条約4条Bの規定により乙には先使用の通常実施権は生じない。
4.従って、乙の主張は認められない。
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■その4 明文的に規定されていることは、条文を根拠にしよう
「「否認」→「抗弁」の順に検討しろ」という指導の影響だろうか。明文的に規定されている抗弁事由よりも、明文的に規定されていない物でもいわゆる否認事由とされることを優先的に述べる傾向がまま見られる。
受験新報Vol80 p36 商標法 設問(2-3) 再現答案1より
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商標権の侵害とは、権原なき第三者が指定商品等またはこれに類似する商品等に登録商標またはこれに類似する商標を使用することをいう(26条、37条1号)。
ここで、出願ロに係る指定商品と、乙の販売に係る商品とは、ブランデーで同一である。出願ロに係るブランデーの瓶の形状αと、乙の販売に係るブランデーの瓶の形状とは、同一であるが、乙の販売に係る瓶には識別力を有する商標Aが付されていないため、商標が非類似である。
よって、乙の販売に係る瓶は、甲の出願に係る商標と非類似であるから、商標権の侵害とはならない。
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怪しい類否判断をするよりも、明文的に規定されている26条を使うべきである。中には、「非類似の場合侵害とはならない。類似であっても26条」というような訳の分からぬ記載もある。最終的に「26条で非侵害」というのであれば、最初から「26条で非侵害」といえば済む話である。
マイ回答案4
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αは、ロに係る商標権の商標の一部である(26条1項括弧書き)が、その用途、機能等から予測しがたいような特異な形状等を備えているものではなく、なおかつ、指定商品ブランデー、商標αに係る商標登録出願は識別力がないとして拒絶されている。従って、αは、商品「ブランデー」の容器の形状を普通に用いられる標章のみからなる商標(26条1項2号)に該当する。
よって、ロに係る商標権の効力は、商品をブランデーとする商標αには及ばない(26条1項柱書)。
従って、乙のαを容器とした商品ブランデーの販売行為は、甲の商標権の侵害とはならない。
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■備考
上記マイ回答案1-4は、多少丁寧になっているとはいえ、俺が実際に本試験で書いたものも同じようなものである。だから絶対に誰にもかけぬというような机上の空論というわけでない。
もし、上記の記載が、悩める論文受験者の参考になれば幸いである。
■その他リンク
弁理士試験ストリート